ふっ素樹脂とは?種類・特性・用途別の選び方を徹底解説

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ふっ素樹脂に対して「テフロンとの違いは?耐熱性や耐薬品性は?どの材質が最適なのか?」などの疑問を持っていませんか?ふっ素樹脂には複数の材質があり、それぞれ特性が大きく異なります。間違った材質を選定してしまった場合、それぞれの特性を活かしきれずトラブルの原因になることがあります。

そこで本記事では、当社バルカーの高機能樹脂担当スタッフがふっ素樹脂の種類と特性をわかりやすく解説し、適切な材質の選び方や加工方法についても詳しく紹介します。バルカーが長年培ってきた知見をもとに正しい選定基準を解説しますので、ぜひ参考にしてください。

ふっ素樹脂の基本概要について

ふっ素樹脂はふっ素原子を含む高機能性の合成樹脂を指し、優れた耐熱性・耐薬品性・低摩擦性を備えた材質として知られています。半導体・航空宇宙・医療・食品産業など、高い耐久性と特殊な性能が求められるさまざまな分野で幅広く活用されています。

そんなふっ素樹脂の特徴として、温度による影響や腐食性の強い化学薬品の影響を受けにくいことが挙げられます。これは化学的に非常に安定している炭素(C)とフッ素(F)の強固な結合による特徴です。

また、ふっ素原子が分子の表面に多く配置されているため非常に低い表面エネルギーを持つことで非粘着性や撥水性に優れるという特性もあります。この特性は、調理器具のテフロン加工や汚れにくい医療機器、電子部品などに活用されています。

ちなみに、ふっ素樹脂とテフロンの違いは「一般名称」と「商標」の違いです。「テフロン™」は後述するふっ素樹脂の1材質、PTFEにおける米デュポン社(現ケマーズ社)の登録商標として広く認知されています。

ふっ素樹脂の種類について

材質(略称) 材質(正式名称) 材質(日本語名称)
PTFE ポリテトラフルオロエチレン 四ふっ化エチレン樹脂
PFA パーフルオロアルコキシアルカン 四ふっ化エチレンーパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合樹脂
FEP パーフルオロエチレンプロペンコポリマー 四ふっ化エチレンー六ふっ化プロピレン共重合樹脂
ETFE エチレンーテトラフルオロエチレンコポリマー 四ふっ化エチレンーエチレン共重合樹脂
PVDF ポリビニリデンフルオライド ふっ化ビニリデン樹脂
ECTFE エチレンークロロトリフルオロエチレンコポリマー 三ふっ化塩化エチレンーエチレン共重合樹脂
PCTFE ポリクロロトリフルオロエチレン 三ふっ化塩化エチレン樹脂
TFE / PDD テトラフルオロエチレンーパーフルオロジオキソールコポリマー 四ふっ化エチレン・パーフルオロジオキシソール共重合樹脂
PVF ポリビニルフルオライド ふっ化ビニル樹脂

ふっ素樹脂にはさまざまな種類があり、それぞれ化学構造や特性が異なるため用途によって最適なものを選ぶことが重要です。ふっ素樹脂は大きく分けると、以下3つの分類に分けられます。

  • 完全ふっ素化樹脂
    • 分子構造のすべての炭素結合がふっ素原子で置換されている樹脂
    • 耐薬品性・耐熱性・電気絶縁性が非常に高いが、成形が難しい
    • 例:PTFE、PFA、FEPなど
  • 部分ふっ素化樹脂
    • 炭素結合の一部がふっ素で置換されている樹脂
    • 機械的強度や耐摩耗性に優れるが、完全ふっ素化樹脂より耐薬品性はやや低く、耐摩耗性が求められる用途に適する
    • 例:ETFE、PVDFなど
  • ふっ素化樹脂共重合体
    • 異なるモノマーを組み合わせた共重合体で特性のバランスが良く、加工性も高いので複雑な形状の部品にも適応可能
    • 例:ECTFE、TFE / PDDなど

ふっ素樹脂は「どれも同じ」と思われがちですが、実際には材質によって特性が大きく異なるので適材適所によって選定する必要があります。たとえば、耐熱性がもっとも高い材質はPTFEですが、溶融粘度が高い特性によって射出成型や押出成形ができないため、射出成形・押出成形が可能なPFA・FEPなどのふっ素樹脂で代替することがあります

また、ETFE・PVDF・PCTFEは機械的強度に優れるため、構造部品や耐摩耗性が求められる用途で選ばれます。

Fluorocarbon polymers position in the hierarchy of resins, based on heat resistance and material properties

このように、ふっ素樹脂は材質ごとに特性に違いがあるため用途に応じた選定が不可欠です。各ふっ素樹脂の詳細については、後述する次の章の各一覧表をご参照ください。

ふっ素樹脂の特性とメリットを徹底比較!最適な材質の選び方

ふっ素樹脂は非粘着性・表面特性(撥水・撥油)・低摩擦特性・耐薬品性・耐熱性・電気絶縁性・耐候性・難燃性など、数多くの優れた特性を持つ高機能樹脂です。その一方で、材質によって特性に違いがあるため用途ごとに最適な樹脂を選ぶことが重要です。

この章では、物理的特性・機械的特性・熱的特性・電気的特性・その他の特性に項目を分けて、それぞれのメリットと材質ごとの違いについて詳しく解説します。各特性を比較しながら、用途に適したふっ素樹脂の選び方を確認していきましょう。

物理的特性のメリットとは?材質ごとの違いを解説

ASTM試験法 PTFE PFA FEP ETFE PVDF ECTFE PCTFE
融点(℃) 327 310 260 270 156-170 245 220
比重(g / ㎤) D792 2.14-2.20 2.12-2.17 2.12-2.17 1.70 1.75-1.78 1.68-1.69 2.1-2.2

ふっ素樹脂はその比重(密度)と融点によって物理的特性が異なり、用途ごとに適した材質を選定することが重要です。

たとえば、軽量で機械的強度のバランスが良いETFEやECTFEは構造部品向きですが、耐熱性が求められる場合はPTFEやPFAが最適です。これらの物理的特性の違いは耐久性や加工性にも影響を与えるため、適切な選定が求められます。

機械的特性のメリットとは?材質ごとの違いを解説

ASTM試験法 PTFE PFA FEP ETFE PVDF ECTFE PCTFE
引張強さ(MPa) D638 27.4-34.3 24.5-34.3 21.6-31.4 45.1 34.3-43.1 48 30.9-41.2
伸び(%) D638 200-400 300 250-330 100-400 80-300 200-300 80-250
圧縮強さ(MPa) D695 11.8 16.7 15.2 49 66.6-96 31.4-51
衝撃強度(J / m) D256A 160 破壊せず 破壊せず 破壊せず 160-374 破壊せず 133-144
硬さ / ロックウェル D785 R50 R77-83 R75-95
硬さ / ショアー D2240 D50-55 D60 D55 D75 D75-77 D55
曲げ弾性率(MPa) D790 550 660-690 650 1400 2000-2480 660-690
引張弾性率(MPa) D638 400-550 340 820 1310-1500 1030-2100
動摩擦係数(MPa) 0.69MPa
3m / min
0.10 0.2 0.3 0.4 0.39 0.37

ふっ素樹脂は材質ごとに引張強さや伸び・圧縮強さ・衝撃強さなど、機械的特性にも違いがあるため使用する環境や求める性能に応じた選定が必要です。

たとえば、PTFE・PFAは圧縮強さに劣る一方で、伸びが大きく柔軟性に優れているためシール材やチューブに向いています。

熱的特性のメリットとは?材質ごとの違いを解説

ASTM試験法 PTFE PFA FEP ETFE PVDF ECTFE PCTFE
熱伝導率(W / (m・K)) C177 0.25 0.25 0.25 0.24 0.10~0.13 0.16 0.20~0.22
比熱(J / (g・K)) 1.0 1.0 1.2 1.9-2.0 1.4 0.92
線膨張係数(10⁻⁵ / ℃) D696 10 12 8.3-10.5 5.9 7-14 8 4.5-7.0
ボールプレッシャー温度(℃) 180 230 170 185 170
熱変形温度 1.81MPa(℃) 55 50 55 74 87-115 77
熱変形温度 0.45MPa(℃) 121 74 72 104 149 116 126
最高使用温度(℃) (無荷重) 260 260 200 150-180 150 165-180 177-200

ふっ素樹脂は熱伝導率や比熱・線膨張係数・耐熱性(最高使用温度・熱変形温度)などの熱的特性も異なり、用途ごとに長寿命化・耐久性を意識した適切な材質の選定が求められます。

たとえば、耐熱性を重視するなら最高使用温度がもっとも高いPTFEやPFA、寸法安定性を求めるなら線膨張係数が比較的安定しているPCTFEが適しています。

電気的特性のメリットとは?材質ごとの違いを解説

ASTM試験法 PTFE PFA FEP ETFE PVDF ECTFE PCTFE
体積抵抗率(Ω-cm) D257(50% RH.23℃) >10¹⁸ >10¹⁸ >10¹⁸ >10¹⁶ 2×10¹⁴ >10¹⁸ 1.2×10¹⁸
絶縁破壊の強さ(kV / mm) D149 19 20 20-24 16 10 20 20-24
誘電率 / 60Hz D150 <2.1 <2.1 2.1 2.6 8.4 2.6 2.24-2.8
誘電率 / 10³Hz D150 <2.1 <2.1 2.1 2.6 8.4 2.6 2.3-2.8
誘電率 / 10⁶Hz D150 <2.1 <2.1 2.1 2.6 6.43 2.6 2.3-2.5
誘電正接 / 60Hz D150 <0.0002 <0.0002 <0.0002 0.0006 0.049 <0.0005 0.0012
誘電正接 / 10³Hz D150 <0.0002 <0.0002 <0.0002 0.0008 0.018 0.015 0.023-0.027
誘電正接 / 10⁶Hz D150 <0.0002 0.0003 <0.0005 0.005 <0.015 0.009-0.017
耐アーク性(s) D495 >300 >300 >300 75 50-70 18 >360

ふっ素樹脂は体積抵抗率や絶縁破壊の強さ・誘電率・誘電正接・耐アーク性などの電気的特性にも各材質ごとに違いがあり、電気絶縁性能や高周波特性などを意識して最適な材質を選ぶことが重要です。

たとえば、高い電気絶縁性能を求めるなら体積抵抗率が高いPTFEやPFA、高周波特性を重視するならPTFEが適しています。

その他特性のメリットとは?材質ごとの違いを解説

ASTM試験法 PTFE PFA FEP ETFE PVDF ECTFE PCTFE
吸水率 / 24h(%) D570 <0.01 <0.03 <0.01 0.029 0.04-0.06 0.01 0.00
燃焼性 / 3.2mm厚 (UL-94) V-0 V-0 V-0 V-0 V-0 V-0 V-0
限界酸素指数 D2863 >95 >95 >95 30 44 60 >95
直射日光の影響 なし なし なし なし なし なし なし
アルカリ
溶剤

ふっ素樹脂は吸水率や難燃性・耐候性・耐薬品性など、その他特性においても優れた性能を発揮します。

たとえば吸水率を比較すると、湿度が影響する精密部品や電子機器にはPCTFEが適しています。また、すべての材質がV-0相当の難燃性の特性があります。耐薬品性に関しては、PTFE・PFA・FEPが化学薬品全般に対する耐性が極めて高く産業用途に有効です。

ふっ素樹脂の注意すべき弱点と対策を解説

ふっ素樹脂は優れた耐熱性や耐薬品性・低摩擦性などの特性を持つ高機能樹脂ですが、一方で以下7つのデメリットも存在します。用途によっては適切な設計や加工方法を検討する必要があります。

Weaknesses of fluorocarbon polymers, including heat resistance, cost, and processing challenges.

1. 変形しやすいため、荷重による変形を考慮する

ふっ素樹脂は高温環境での耐久性に優れる一方で、機械的強度が低いため変形しやすいという課題があります。特にPTFEは引張強度が低く、高負荷のかかる部品には向きません。

ふっ素樹脂の機械的強度を補う方法として、ガラス繊維・カーボン・ブロンズなどの充てん材を添加することで強度を向上させる対策が有効です。

2. 磨耗しやすいため、摩耗耐性が高い材質の選定が重要

ふっ素樹脂は低摩擦特性が強みですが、その反面、長時間の摺動(摩擦)による摩耗が起こりやすいという欠点があります。そのため、摺動部品では充てん剤を添加して耐摩耗の対策が必要です。

ふっ素樹脂を摩耗しにくくする方法として、PCTFEやPVDFなどの摩耗耐性が高い材質を選定することも有効な手段といえるでしょう。また、摺動部品ではガラス繊維などの強化材を充填することも対策の一つに挙げられます。

3.接着性が低いため、表面処理で対策

ふっ素樹脂は表面エネルギーが極めて低いため、接着剤での固定が難しく、密着性が低いことも注意しておきましょう。

ふっ素樹脂に接着を必要とする場合は、対策としてプラズマ処理を行ったり、特殊プライマーを使用する必要があります。

4. 成形性が低いため、用途や予算に応じた材質の選定が重要

PTFEなど一部のふっ素樹脂は、一般的な射出成形が難しいため特殊な加工技術が必要です。

成形性を改善する手段として、PFAやFEPなどの比較的成形性が良い樹脂を選定することが有効です。ただし、これらのふっ素樹脂は加工コストが高くなるため、用途や予算に応じた選定が重要です。

5. コストが高いため、代替可能なエンジニアリングプラスチックを検討

ふっ素樹脂は製造プロセスが複雑かつ原料コストが高いため、他のエンジニアリングプラスチックと比べても価格が高い傾向にあります。特にPTFEやPFAは高価な部類に入り、大量生産用途ではコスト面の考慮が必要です。

ふっ素樹脂のコストを抑える方法として、用途ごとに最適な材質を選定し、不必要な高グレードの樹脂を避けることでコスト削減が可能です。また、代替可能なエンジニアリングプラスチックを検討することも一つの手段といえます。

6. 高温加工時のガス発生には、安全な作業環境の確保が重要

ふっ素樹脂を高温(約260℃以上)で加工すると、分解して有毒なガス(ふっ素ガス)が発生する可能性があります。

特にPTFEやPFAを加熱するとガスが発生しやすいため、適切な換気設備のある環境での加工が必要です。工場や作業現場では排気装置や防毒マスクの使用を推奨します

7. リサイクルが難しいため、環境負荷を考慮した対応を念頭に

ふっ素樹脂は耐薬品性・耐熱性が極めて高い反面、リサイクルが難しく、廃棄の際に特殊な処理が必要になるという課題があります。そのため、環境負荷を考慮した設計が求められています。

ふっ素樹脂のリサイクル対策として、廃棄時には専門業者のリサイクルシステムを活用し、適切に処理することを意識しておきましょう。

ふっ素樹脂の主な用途と産業での活用例

ふっ素樹脂は優れた耐熱性・耐薬品性・低摩擦性・電気絶縁性などの特性を活かし、幅広い産業で利用されています。特に、半導体・電子機器産業や医療・製薬産業、化学・プラント産業、航空宇宙・自動車産業、食品産業など、現代において高い品質・安全性が求められる各分野で必要不可欠な素材です。

材質 産業分野 主な用途
PTFE 半導体・化学プラント・航空宇宙など ケーブル絶縁材・ガスシール・耐薬品タンクなど
PFA 半導体・医療・化学プラントなど 半導体製造装置・医療用チューブ・ライニングなど
FEP 電子機器・医療・通信など 光ファイバー被覆・医療フィルター・電気絶縁材など
ETFE 航空宇宙・自動車など 軽量構造部品・燃料ホース・電線被覆など
PVDF 医療・化学プラント・食品産業など フィルター膜・化学タンク・耐薬品チューブなど
ECTFE 化学プラント・建築など タンクライニング・防食コーティングなど
PCTFE 航空宇宙・電子機器など 精密バルブ・ガスバリア部品など

前述の章でも解説した通り、材質ごとに特性が異なるため用途に適した選定が重要です。

たとえば、PTFEは半導体・化学プラント・航空宇宙分野でもっとも多く使われるふっ素樹脂です。特に、耐薬品性と電気絶縁性を活かしてケーブル絶縁材や化学タンクのライニングなどに活用されています。また、低摩擦特性を活かして摺動部品やシール材にも使われています。

PFA・FEPはPTFEと同様の耐薬品性を持ちながらも成形性に優れており、また透明性も高いため、半導体製造装置の配管や医療用チューブ、フィルターなどに使用されています。特に、高純度が求められる環境での使用に適しているため、クリーンルーム内での流体輸送や薬液供給装置には不可欠な材質です。

ETFE・PCTFEは耐候性・機械的強度・耐衝撃性に優れているため、航空宇宙・自動車産業で活用されています。特に、ETFEは軽量でありながら強度が高いため燃料ホースや電線被覆に使用され、PCTFEは低温環境でも寸法安定性が高いため宇宙開発や特殊ガスバリア用途に適しています。

ふっ素樹脂の成形方法とは?各材質に適した加工技術を解説

ふっ素樹脂は材質ごとに適した成形方法が異なるため、用途に応じた加工技術の選定が重要です。

PTFEは溶融加工ができないため、モールディングパウダー・ファインパウダー・ディスパージョンなどを用いた特殊な成形法が必要です。一方で、PFAに代表される溶融粘度を改善したふっ素樹脂は、押出成形・射出成形などの一般的な成形方法が適用されます。この章では、各成形法の特徴を詳しく解説します。

PTFE(モールディングパウダー) PTFE(ファインパウダー) PTFE(ディスパージョン) PFA FEP ETFE PVDF ECTFE PCTFE
圧縮成型法(ホットプレス成形含む)
アイソスタティック成形法
ラム押出成形法
ペースト成形法
カレンダリング成形法
含浸コーティング法
押出成形法
射出成形法
トランスファ成形法
回転成形法(ロータリーモールディング)
ブロー成形法(インジェクションブロー含む)

モールディングパウダー

モールディングパウダーはPTFEの粉末を加圧して成形する技術の総称です。

この成形法では熱を加えずに圧縮し、焼結によって固めるプロセスが採用されます。主に、圧縮成型法とラム押出成形法の2種類があります。

圧縮成形法(ホットプレス成形含む)

圧縮成形法はPTFEの粉末を型に入れ、圧力をかけて成形する方法です。ホットプレス成形では、圧力を加えながら加熱することで、より密度の高い成形品を作ることができます。

この成形方法はブロック材やシート材・大型のシール材などの成形に適しており、均一な品質が求められる用途で使用されます。

ラム押出成形法

ラム押出成形法はPTFEの粉末を高圧で押し出し、連続的にチューブやロッド状の製品を成形する方法です。

この成形方法は継ぎ目のない長尺の製品を作るのに適しており、耐薬品ホースや電気絶縁材などの用途に利用されます。

ファインパウダー

ファインパウダーはPTFEをより細かい粒子に凝集した白色粉末を指し、ペースト押出成形法やカレンダリング(圧延)成形法の原料として用いられます。

剪断力を加えると繊維化する性質があり、チューブやパイプ・生テープ・電線被覆などのさまざまな長さの繊維の製造・成形ができます

ペースト押出成形法

ペースト押出成形法はファインパウダーに潤滑剤を混ぜて予備成形物を作り、押出し後に潤滑剤を乾燥・焼成して成形する方法です。

この成形方法は極細チューブやワイヤー被覆などの製造に用いられ、特に電気絶縁材や医療チューブに活用されています。

カレンダリング(圧延)成形法

カレンダリング成形法は圧延機を用いて、ファインパウダーを薄膜に加工する技術です。

この成形方法は連続的なシート状の成形が可能で、フィルムや耐薬品ライニングシートなどに使用されます

ディスパージョン(含浸コーティング法)

ディスパージョンはPTFEを分散液(ディスパージョン液)として利用し、表面に薄膜を形成する技術です。主に含浸コーティング法が用いられます。

その含浸コーティング法はPTFEの分散液を基材(ガラスクロスや金属部品など)に浸透させ、表面に薄膜を形成する成形方法です。この成形方法は耐薬品コーティングや非粘着シートなどの製造に適しています。

押出成形法

押出成形法は熱可塑性ふっ素樹脂を加熱・溶融し、口金を通して連続的に押し出して成形する方法です。

この成形方法はチューブやシート・フィルムなどの製造に利用されています。適用材質はPFA・FEP・ETFE・PVDF・ECTFE・PCTFEと幅広く、PTFEには適用されません。

射出成形法

射出成形法は溶融したふっ素樹脂を金型に流し込み、急冷して成形する方法です。

この成形方法は複雑な形状の部品を大量生産するのに適しており、バルブ部品や電子機器のパーツなどに利用されます。

トランスファー成形法

トランスファー成形法は溶融した樹脂を加圧しながら金型内に流し込み、均一に成形する方法です。

この成形方法は射出成形法と異なり、内部の空隙を減らすことができるため、高精度が求められる機械部品やシール材に適しています。

回転成形法(ロータリーモールディング)

回転成形法は粉末状の樹脂を金型内で回転させながら加熱し、均一な肉厚の成形品を作る方法です。

この成形方法は大型タンクや耐薬品ライニング材などに利用されています。

ブロー成形法(インジェクションブロー成形含む)

ブロー成形法は樹脂を加熱し、型の中に空気を吹き込んで膨らませることで中空成形品を作る方法です。

特に、インジェクションブロー成形は射出成形とブロー成形を組み合わせた技術で、小型ボトルやタンクの製造に適しています。

後加工方法

ふっ素樹脂の成形品は使用環境や用途に応じて後加工(仕上げ加工)を施すことで、より精密な形状や機能性を実現できます。PTFEでも切削や接合技術を活用することで、より高度な部品加工が可能です。

切削加工

切削加工は成形済みのふっ素樹脂(シート・棒材など)を旋盤やマシニングセンタ・複合加工機などの工作機械で削り、目的の形状に仕上げる加工方法です。

ふっ素樹脂は射出成形や押出成形で製造されることが大半ですが、金型成形とは異なり微細な調整が可能なため、高精度な部品(バルブシート・ガスケット・シール材など)や少量生産・試作品では、金型不要でカスタムしやすい切削加工が必要になるケースが多いです。

そのため、切削加工によってPTFEも射出成形や押出成形同様、複雑な形状に対応することができます。バルカーでは表面切削や溝部切削・テーパー加工・ポケット加工・穴加工・裏面ポケット加工・裏面切削・端面加工・外径加工・内径加工・マシニング加工に対応しています。

研磨加工

研磨加工はふっ素樹脂の表面を磨くことで粗さを低減し、平滑性を向上させる加工技術です。

低摩擦特性をさらに向上させるために、摺動部品やシール材に使われるPTFE・PFAの表面仕上げとして使用されます。

溶接・接合加工

ふっ素樹脂は耐薬品性が高いため一般的には溶接が困難ですが、一部のメーカーで溶接が可能です。

PFAチューブとPTFEブロックを溶接するなどして、配管部品を作る際に利用される技術で、化学プラントや半導体産業での利用が多いです。

接着(プラズマ処理後)

ふっ素樹脂は表面エネルギーが低いため通常の接着剤では密着しにくいのですが、シール材・電気絶縁用途としてプラズマ処理やエッチング処理を施すことで、金具や他素材との接着が可能になります。こちらの処理は特にPTFEやPFAの加工時に用いられる手法です。

バルカーにおけるふっ素樹脂の商品ラインナップ

ふっ素樹脂は優れた耐熱性・耐薬品性・低摩擦特性を持ち、多くの産業で活用される高機能樹脂です。バルカーではPTFE(バルフロン®)だけでなくPFA・PCTFE・PVDFの4材質を取り扱っており、用途に応じた最適な材質の提供が可能です。

特に、当社バルカーが製造・販売するPTFE製品「バルフロン®」は従来のPTFEよりも耐クリープ性や耐屈曲疲労性に優れた独自開発品であり、ガスケット・シール材・バルブシートなどの耐久性が求められる用途で高い性能を発揮します。

より詳細な商品ラインナップをご希望の方はバルカー製品情報をご確認ください。

ふっ素樹脂を選ぶ際の注意点とコスト

ふっ素樹脂はさまざまな優れた特性を備えているため多くの産業で利用されていますが、選定を誤るとコストが増大してしまい用途に適さない可能性があります。

この章では、ふっ素樹脂を選ぶ際の注意点とコストに関するポイントを解説し、最適な材料選びのための基準を紹介します。

ふっ素樹脂を選ぶ際の注意点

ふっ素樹脂は材質ごとに特性が異なるため、以下のポイントを考慮して適切な材料を選定することが重要です。

  • 耐熱性・耐薬品性による違いを理解
  • 使用環境(温度・圧力・摩耗)に応じた選定
  • 成形方法の違いによるコスト変動

上記項目の詳細については前述の各章をご参照ください。

ふっ素樹脂のコストを抑える方法

ふっ素樹脂は他のエンジニアリングプラスチックと比べても価格が高い傾向にあります。しかし、適切な選定や加工方法の工夫によってコストを最適化することが可能です。

1. 過剰なグレードを選ばない

ふっ素樹脂のコストを抑える方法として、用途に適したグレードを選定し、不要な高性能材を避けることがコスト削減につながります。

たとえば、半導体・医療用途でなければ高純度グレードのPFAを選定する必要はありません。また、耐薬品性が求められない用途であれば、PTFEの代わりにPVDFやPCTFEを使用することでコストダウンが可能です。

2. 成形方法を適切に選ぶ

成形方法を適切に選ぶことで、ふっ素樹脂の加工コストを最適化することができます。

たとえば、大量生産には射出成形が可能な熱可塑性ふっ素樹脂(PFA・PVDFなど)を選択することがコスト削減に最適です。また、少量&高精度加工であれば切削加工を活用することで金型費用を抑えたり、複雑形状ならトランスファー成形や回転成形を活用することで無駄な材料を削減することにつながります。

3. 加工方法を工夫する

後加工(仕上げ加工)の選択肢を考慮して、材料費と工数を削減することもコストダウンの鍵です。

たとえば、PTFEはブロック材を購入して切削加工するよりも成形時に近い形状にすることで無駄な材料コストを削減することができます

また、接着が不要な場合はネジ切りや機械的な固定方法を活用することで追加の加工費を削減できます。

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バルカー編集部

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エンジニアリングプラスチック, スーパーエンプラ, ふっ素樹脂, 樹脂, 高性能樹脂

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PEEK樹脂とは?特性や耐熱温度、用途など徹底解説

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高性能樹脂の一つとして知られるPEEKは、航空宇宙や医療、自動車産業など最先端の現場で活躍する一方で、その名前を耳にすることすら少ない方も多いかもしれません。しかし、PEEKはその驚異的な耐熱性や耐薬品性から、従来の金属や汎用樹脂を置き換える素材として、今後さらに需要が拡大するかもしれません

本記事では、当社バルカーの高機能樹脂担当スタッフがPEEKの特性や用途などについてわかりやすく解説します。この記事を通じて、PEEKの全体像をつかむだけでなく、貴社の製品設計や素材選定に役立ててください。

PEEK樹脂の基本情報と特徴

この章ではPEEKの基本情報について解説します。PEEKの基礎を理解することで、他の材質との特性の違いを理解したうえで調達する手助けとなるでしょう。

PEEK樹脂の概要

PEEKはスーパーエンプラの中でも上位の特性を誇る高機能樹脂です。正式名称は「Poly Ether Ether Ketone(ポリエーテルエーテルケトン)」であり、分子構造に含まれるエーテル基とケトン基から由来しています

PEEKは優れた耐熱性や機械的強度、化学的安定性を兼ね備えており、特に高い性能が求められる航空宇宙や自動車、医療などの分野で利用されています。このような特性により、PEEKは金属やその他の汎用エンプラでは対応できない過酷な環境でも活躍できる素材として注目されています

PEEK樹脂の誕生と歴史

PEEKは1970年代に英国のICI(Imperial Chemical Industries)によって開発されました。当時は、耐熱性や機械的特性の向上を目指した研究の一環で生まれた素材であり、1980年代以降に産業界での利用が拡大しました。

現在では、その高い性能と汎用性から、グローバルに多数のメーカーがPEEKを製造し、幅広い分野で欠かせない材質となっています。

PEEK樹脂の分子構造と特性

PEEK樹脂の分子構造には、繰り返し単位としてエーテル基(–O–)とケトン基(C=O)が含まれています。この構造は、結晶性ポリマーの中でも特に高い剛性と耐熱性を与える要因となっています。また、エーテル基による柔軟性とケトン基の強い分子間相互作用が、耐化学性や摩耗特性の高さを支えています。

The molecular structure of PEEK, a high-performance polymer with excellent heat and chemical resistance

この独特の分子構造により、PEEKは以下のような性質を持っています。

  • 耐熱性:250℃程度の連続使用温度に耐える
  • 耐薬品性:酸やアルカリ、溶剤に対する優れた耐性
  • 機械的強度:引張強度や圧縮強度が高い

PEEK樹脂とその他スーパーエンプラとの違い

PEEKはスーパーエンプラの一つに分類されますが、他の材質と比較しても明確な優位性があります。

PEEK's position in the hierarchy of resins, based on heat resistance and material properties

たとえば、PEEKはPI(ポリイミド)に匹敵する耐熱性を持ちながらも、成形加工が比較的容易で、コストパフォーマンスに優れています。また、PES(ポリエーテルサルフォン)と比較して、PEEKは機械的強度が高く、耐摩耗性に優れています。そのため、摩耗や高負荷がかかる環境での利用に適しています。

さらに、PTFEなどのふっ素樹脂と比べて機械的強度が格段に高く、耐薬品性も同等レベルであるため、金属代替用途としても有効です。このように、PEEKは耐熱性や耐薬品性、強度、加工性など、多くの要素でバランスの取れた特性を持つ点が他のスーパーエンプラと一線を画します

PEEK樹脂のメリット・デメリット

PEEKはその高い性能から、多くの産業で利用されていますが、あらゆる素材と同様にメリットだけでなくデメリットも存在します。この章では、PEEK樹脂の特性に基づく利点と注意点を詳しく解説します。

PEEK樹脂のメリット

PEEKのメリットは、高性能なエンジニアリングプラスチックとしての特徴が集約されています。その中でも特筆すべき点として、耐熱性、機械的強度、耐薬品性の3つが挙げられます。

1. 優れた耐熱性

PEEKの最大のメリットのひとつは、非常に高い耐熱性です。PEEKは連続使用温度が250℃程度に達し、高温環境下でも安定した性能を発揮します。この耐熱性は分子構造中のエーテル基とケトン基が強固な結晶性を形成し、熱に対する高い耐性を示すためです。

たとえば、航空宇宙産業ではエンジン周辺の部品、自動車産業ではエンジンや排気系部品などに幅広く使用されています。これらの環境では、他のエンプラでは形状変化や性能劣化が懸念されるなか、PEEKはその安定性で高く評価されています。

このように、PEEKの優れた耐熱性は高温環境での信頼性を求める用途において不可欠な特性です。

2. 高い機械的強度

PEEKは軽量でありながら高い機械的強度を持つため、金属代替材料としても利用されます。分子構造の剛性と結晶性が外力に対する高い耐性を提供しているため、これほどの強度を誇ります。

たとえば、自動車のギアやベアリングといった高負荷部品、航空機の構造部品に使用されるケースが一般的です。これにより、製品の軽量化と強度の両立が可能になります。

PEEKの高い機械的強度は、製品の耐久性と効率性を向上させる重要な要因となっています。

3. 優れた耐薬品性

PEEKは多くの酸やアルカリ、有機溶剤に対して優れた耐性を持ちます。腐食環境や化学薬品に晒される用途でも長期間使用可能です。この特性は、分子構造の高い安定性と化学的不活性に起因します。

たとえば化学工業では、配管やバルブ部品に使用され、腐食によるトラブルを軽減します。また、医療機器でも洗浄や滅菌が求められる部品に用いられています。

耐薬品性が必要とされる環境での信頼性を支える素材として、PEEKは非常に優秀です。

PEEK樹脂のデメリット

一方で、PEEKにも注意すべきデメリットがあります。主に、コストの高さや加工時の技術的な制約が挙げられます。これらの点を把握しておくことは、適切な素材選定に役立ちます。

1. 高コスト

PEEKは他のエンジニアリングプラスチックと比較して、非常に高価です。製造プロセスが複雑であり、材料の供給量が限られていることに起因します

たとえば、同じ部品をPEEKではなくPC(ポリカーボネート)やナイロンで製造した場合、コストを大幅に抑えられるケースがあります。ただし、性能面で妥協が必要になることも事実です。

高コストであるため、使用する際には費用対効果を十分に検討する必要があります。

2. 加工の難しさ

PEEKはその高い特性ゆえに、加工時に特別な技術や設備を必要とします

たとえば、射出成形では高い温度制御が求められ、金型や設備のコストも高額になります。また、切削加工では適切な工具や条件を設定しなければ、摩耗や仕上がり精度の低下が発生する可能性があります。

加工の難しさは、PEEKを利用する際の導入コストを押し上げる要因となります。

PEEK樹脂の主な用途と産業での活用例

PEEKは、その高い性能から幅広い産業で利用されています。この章では、PEEKの具体的な用途と活用例を産業ごとに解説します。

航空宇宙分野でのPEEK樹脂の活用

PEEKは航空宇宙分野において不可欠な素材となっています。特に、耐熱性と軽量性が求められる部品に採用されています。

航空機では、エンジン周辺部品や配管、ケーブル被覆など、高温環境や機械的ストレスにさらされる部品にPEEKが利用されます。これらの部品に採用される理由は、PEEKが250℃程度の高温に耐え、従来の金属部品を軽量化しつつ、必要な強度を保てるからです。ジェットエンジンの構造部品や航空機の燃料系配管にPEEKが使用されることで、燃費向上や耐久性の向上に寄与しています。

このように、航空宇宙分野におけるPEEKの活用は、高温耐性と軽量化という課題を解決する鍵となっています。

自動車産業でのPEEK樹脂の活用

自動車産業において、PEEKは金属代替材として活躍しています。特に、軽量化と高い機械的強度が求められる部品に適しています。

エンジン部品やギア、シール、ベアリングなど、機械的負荷が高い部位でPEEKが使用されています。これらの部品は、エンジンの高温環境や摩耗に耐えながら、製品全体の軽量化を実現します。従来金属で製造されていたエンジン周辺部品をPEEKに置き換えることで、車両重量の削減と燃費向上が可能になります。

PEEKは、自動車の高効率化と耐久性向上を実現する重要な素材として、今後も需要が拡大するでしょう。

医療分野でのPEEK樹脂の活用

医療分野では、PEEKの生体適合性と滅菌耐性が評価されています。この特性により、インプラントや医療機器の部品として利用されています。

PEEKは骨の強度に近い特性を持ち、X線透過性があるため、整形外科インプラントや人工椎間板に使用されています。また、耐薬品性と滅菌対応力により、手術用器具や歯科機器にも適しています。脊椎インプラントや人工膝関節部品にPEEKが採用されており、患者の生活の質(QOL)の向上に寄与しています。

医療分野でのPEEKの使用は、人体との相性や耐久性を考慮した製品設計において重要な役割を果たしています。

電子・電気産業でのPEEK樹脂の活用

電子・電気産業では、PEEKの優れた絶縁性と耐熱性が重宝されています。この特性により、高精度な部品製造が可能です。

PEEKはコネクタやケーブル被覆、電子部品の絶縁材として利用されています。また、高温環境で動作するセンサーや半導体製造装置の部品にも適しています。電動車両のバッテリー部品やスマートフォンの高性能コネクタに使用されることで、製品の高効率化と信頼性向上に貢献しています。

電子・電気産業におけるPEEKの活用は、精密機器や高温耐性が必要な環境での重要な解決策となっています。

その他産業でのPEEK樹脂の活用

PEEKは他の産業分野でも特殊な用途で活用されています。その耐久性と耐薬品性が、過酷な環境に適応できる素材として評価されています。

たとえば、半導体製造装置では、高温・高圧下で使用される部品にPEEKが採用されています。また、石油・ガス産業では腐食性液体に接触するバルブやシールに利用されています。

これらの特殊な用途では、PEEKの性能が従来の樹脂や金属では対応できない課題を解決します。

PEEK樹脂の加工方法と注意点

PEEKは、さまざまな加工方法に対応できる汎用性の高い素材ですが、その特性ゆえに特有の注意点も存在します。この章では、PEEK樹脂の加工方法と加工に伴う注意点について詳しく解説します。

PEEK樹脂の成形方法

PEEKの成形方法はさまざまです。以下で各成形方法について解説します。

主な成形方法

PEEK樹脂は、以下のような一般的な成形方法で処理することができます。

  • 射出成形
  • 押出成形
  • 切削加工
  • ブロー成形
  • 真空成形

PEEK樹脂はこれらの成形方法に対応しつつ、高性能な製品を実現できるため、幅広い用途で使用されています。各成形方法についての詳細な解説は、以下の記事をご覧ください。

【エンジニアリングプラスチック(エンプラ)とは?特性や種類・用途をわかりやすく解説】はこちらから

PEEK成形の最新トレンド

近年、PEEK樹脂の成形には3Dプリンターが利用されるケースが増加しています。3Dプリンターによる成形は、複雑な形状の製品や少量生産に最適な方法として注目されています。

たとえば、医療分野では脊椎用インプラントの試作品を3Dプリンターで製造する事例が増えています。この技術により、従来の射出成形では困難だった高精度かつ複雑な設計が実現しています。

PEEK成形における特有の注意点

PEEKの成形には、その特性に基づいた独自の注意点があります。これらを理解して適切に対応することが、高品質な製品を生産するための鍵となります。

高温が必要な成形条件

PEEKの成形には、通常300〜400℃の樹脂温度と150〜200℃の金型温度が必要です。この高温条件が求められる理由は、PEEKの高い結晶性が関係しており、適切な温度管理を行わないと流動性が低下し、製品の精度や強度が損なわれる可能性があります。

たとえば、航空機部品の製造では、温度条件が適切でない場合、成形不良や寸法のばらつきが発生するリスクがあります。そのため、高精度な温度制御装置を使用することが推奨されます。

特殊な金型設計の必要性

PEEKの成形では、専用の金型設計が重要です。特に、冷却速度や収縮率をコントロールするための設計が不可欠です。適切な金型がなければ、製品の寸法精度や結晶性が低下し、強度や耐久性に影響が及びます

たとえば、自動車部品のギアを製造する際には、金型の均一な冷却システムや、高温に耐える特殊材料の採用が必要です。これらの工夫が、PEEK製品の精度と耐久性を確保するためのポイントとなります。

PEEK樹脂の市場動向と今後の展望

PEEKはその優れた特性から、自動車や航空宇宙、電子・電気、医療分野など幅広い産業で使用されています。この章では、市場規模の動向、成長を支える要因、そして今後の展望について詳しく解説します。

市場規模と成長予測

PEEKの市場は近年急速に成長しており、今後も高い成長率が期待されています。2022年の世界市場規模は約8億米ドルと推定され、2029年には11億6,000万米ドルに達すると予測されています。これは年平均成長率(CAGR)7.71%に相当します。

地域別動向

PEEKの市場成長は、地域ごとに特有の産業ニーズを反映しており、今後も多様な分野での拡大が見込まれます。

まず、アジア太平洋地域は世界最大のPEEK消費地域であり、2022年には世界消費量の41%を占めています。特に中国が主導しており、自動車産業や半導体産業の成長が市場を牽引しています。

次に、北米では2024年に1億5,460万米ドル、2029年に2億2,253万米ドルに達すると予測されています。主に航空宇宙産業が最大の需要を占めています。また、ヨーロッパでは2024年に2億9,617万米ドル、2029年に4億1,922万米ドルに達すると予測され、特に航空宇宙や医療分野での需要が高まっています。

成長要因

PEEKの市場成長を支える主な要因には以下の3点が挙げられます。

  1. 金属代替材料としての需要増加
  2. 電子・電気産業での利用拡大
  3. 医療分野での応用

PEEKは軽量で高強度の特性を持ち、金属部品の代替材として自動車や航空宇宙産業で採用が進んでいます。これにより、燃費向上やCO2削減といった課題解決に寄与しています。

また、PEEKの優れた電気絶縁特性と耐熱性が、半導体製造装置や高温コネクタなどの製造に適しており、特にアジア太平洋地域での電子機器需要の増加が市場を押し上げています。

さらに生体適合性と耐薬品性を活かし、インプラントや医療機器部品に使用されているので、医療分野での需要は今後も拡大が予想されます。

今後の展望

まず、AIやIoTなど技術革新の普及に伴い、電気・電子産業での需要がより増加すると予測しています。

また、現在はアジア太平洋地域が引き続き市場をリードする一方で、北米やヨーロッパでも高い成長率が見込まれています。さらに、リサイクル技術の進展により、環境負荷を軽減しつつ市場拡大が進むと考えられます。そのため、PEEK市場は、今後さらなる成長が期待されるでしょう。

出典:PEEK樹脂―グローバル市場シェアとランキング、全体の売上と需要予測、2024~2030
出典:世界のポリエーテルエーテルケトン(PEEK)市場 – 業界動向と2029年までの予測
出典:ポリエーテルエーテルケトン市場規模と市場規模株式分析 – 成長傾向と成長傾向予測 (2024 ~ 2029 年)

PEEK樹脂の種類および商品ラインナップ

PEEKには、その用途や必要な性能に応じてさまざまなグレードとカラーがあります。この章では、PEEKの主要なグレードの特徴と、当社が提供する商品ラインナップや制作事例についてご紹介します。

PEEK樹脂の主要なグレードと特徴

PEEK樹脂はその高い性能を最大限に活かすため、用途に応じて異なるグレードが開発されています。各グレードはそれぞれの特性を活かし、特定の用途で最適なパフォーマンスを発揮するので、以下に代表的なグレードとその特徴を挙げます。

標準グレード

PEEKの標準グレードは、耐熱性、機械的強度、耐薬品性のバランスが最も良いグレードです。このグレードは汎用性が高く、さまざまな産業で利用されています。

  • 特徴:250℃程度の連続使用温度、高い耐薬品性、優れた機械的強度
  • カラー:ベージュ
  • 用途例:自動車部品、航空機の内部構造部品、医療機器の試作品など

導電グレード

導電性を付与したPEEKは、静電気の発生を抑制する必要がある用途に適しています。この特性により、半導体製造装置や電子機器の部品として利用されます。

  • 特徴:高い電気導電性、耐熱性の保持
  • カラー:黒
  • 用途例:半導体製造装置の部品、高温コネクタ、電子機器の外装など

ガラス強化グレード

ガラス繊維を配合したPEEKは、機械的強度をさらに向上させたグレードです。過酷な条件下での耐久性が求められる用途に使用されます。

  • 特徴:引張強度や圧縮強度の大幅な向上、高い耐摩耗性
  • カラー:ベージュ
  • 用途例:高負荷のギア、自動車のシャフト、産業用バルブ部品など

PEEK樹脂を選ぶ際の注意点とコスト

PEEKはその特性から幅広い分野で活用されていますが、選定時には用途やコストに応じた適切な判断が求められます。この章では、PEEKを選ぶ際の注意点と、最適なグレード選定のポイントについて詳しく解説します。

PEEK樹脂を選ぶ際の注意点

以下で、PEEKを選ぶ際に注意すべきポイントを2点解説します。

1. 適切な用途を見極める

PEEKの選定では、用途ごとの性能要件を正確に把握することが重要です。耐熱性、機械的強度、耐薬品性のいずれが優先されるのかを明確にすることで、適切なグレードを選ぶことができます

たとえば、自動車のエンジン周辺部品では耐熱性が重要視される一方で、電子部品では耐薬品性や電気絶縁性が必要になります。用途に応じた性能要件の把握が、最適な素材選定の第一歩です。PEEKの選定には、使用環境や性能ニーズを正確に分析することが必要です。

2. 加工性と製造条件を考慮する

PEEKはその特性ゆえに加工時の注意が必要です。射出成形の場合、高温条件や特殊な金型設計が必要となるため、加工設備や製造プロセスに適合しているかを事前に確認しましょう

たとえば、射出成形設備が高温対応でない場合、PEEKの加工には追加の投資が必要になることがあります。加工性を理解した上で選定を行うことで、製造時の課題を未然に防ぐことができます

用途に応じた最適なグレード選定のポイント

PEEKは用途に応じて標準グレードや導電グレード、ガラス強化グレードなどのバリエーションがあります。それぞれの特性を正確に理解し、ニーズに合ったグレードを選定することが重要です。

選定時には、製品の性能要件に最適な特性を持つグレードを選ぶことで、品質とコストのバランスを実現できます

PEEK樹脂のコストを考慮する

PEEK樹脂は高性能である反面、他のエンジニアリングプラスチックと比較してコストが高い傾向があります。選定時には費用対効果を考慮し、適切なバランスを見極めることが必要です。

1. トータルコストの視点

PEEKの高い単価は、製品の性能や寿命を通じてコスト削減につながる可能性があります。たとえば、耐久性が高いため、部品の交換頻度が低減し、長期的なランニングコストを抑える効果が期待されます。

2. コスト削減のための工夫

適切なグレード選定や加工条件の最適化によって、製造コストを削減することが可能です。また、部品設計時に3Dプリント技術を活用することで、試作段階のコストを大幅に抑えるケースもあります。

コストを考慮しつつ、性能要件を満たすグレードを選ぶことで、費用対効果を最大化する選定が実現できます。

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編集者

バルカー編集部

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PEEK, エンジニアリングプラスチック, スーパーエンプラ, 樹脂, 高性能樹脂

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PTFEとは?高機能樹脂バルフロン®の特性や用途、調達法など徹底解説

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耐熱性や非粘着性、電気絶縁性など、優れた特性によってさまざまな現場で不可欠とされる高性能樹脂PTFE。しかし、私たちの暮らしや産業にどれほど深く関わっているかを意識したことがある人は少ないのではないでしょうか。

本記事では、当社バルカーの高機能樹脂担当スタッフがPTFEの基礎知識から応用例、調達方法に至るまで徹底解説します。創業以来70年以上に渡って積み上げてきた確かな技術と知見をもとに、信頼性の高い情報をお届けしますので、ぜひ参考にしてください。

PTFEの基本情報と特徴

PTFEはスーパーエンプラの中でも優れた特性を持つ材料です。この章では、PTFEの歴史から基本構造や特性、そして他のスーパーエンプラとの違いについて解説します。

PTFEの発見と発展

PTFEは炭素とふっ素からなるスーパーエンプラの一種で、その正式名称は「ポリテトラフルオロエチレン(Poly Tetra Fluoro Etylene)」です。耐熱性や耐薬品性など、多彩な特性を備えたこの材質は、1938年に米国デュポン社のプランケット博士による冷媒研究の過程で偶然発見されました。

博士はテトラフルオロエチレン(TFE)ガスを圧力容器に保存していた際、ガスが重合して白い粉末が生成されていることに気付きました。この粉末がPTFEです。その後、デュポン社は1947年に「テフロン®」の商標でPTFEを市販化し、日本では1952年にバルカーが「バルフロン®」として製品化。家庭用品から先端産業まで、現在に至るまで幅広い分野で活用されています。

PTFEの化学構造と特性の源泉

PTFEの優れた特性は、その独特の化学構造によって支えられています。PTFEは炭素原子が直線状に結合した炭素鎖を、ふっ素原子が完全に覆う構造をしています。この分子構造は非常に安定しており、特性の源泉となっています。

The molecular structure of PTFE, a high-performance polymer with excellent heat and chemical resistance

具体的には、炭素-ふっ素結合(C-F)の結合エネルギーが非常に強いため、260℃の高温下でも分解や変性が起こりにくい耐熱性を発揮します

また、ふっ素原子が化学反応を防ぐ働きを持つことで、強酸や強アルカリにも侵されない高い耐薬品性を示します。さらに分子表面の滑らかさにより、物質が付着しにくい非粘着性が得られます。このようにPTFEは、化学構造から生まれる特性により、工業用途でも日常用品でもその性能を発揮します。

PTFEの製造法

PTFEはその独特な化学構造と特性を実現するために、精密な化学反応とプロセス管理を経て製造されます。

原材料と化学反応

PTFEは蛍石(フルオライト)を原材料として製造します。蛍石を硫酸と反応させてフッ酸を生成し、これをクロロホルムと反応させることでモノクロルジフルオロメタンを得ます。

このモノクロルジフルオロメタンを熱分解することで、テトラフルオロエチレン(TFE)が生成されます。TFEはPTFEの基本構成要素であり、この段階の化学反応は、高い安定性を持つPTFEの特性を形作る基盤となります。

重合方法

TFEをPTFEへと変化させる重合工程には、主に2つの方法が採用されています。1つは懸濁重合で、水とTFEガスを耐圧容器内で反応させ、直径数mmの粉末を生成する方法です。この粉末はさらに微粉化され、モールディングパウダーとして使用されます。

もう1つは乳化重合で、ふっ素系界面活性剤を使用し、微細なPTFE粒子を生成します。この粒子は乾燥・凝析の工程を経てファインパウダーやディスパージョン液として利用され、用途に応じて多彩な形態で活用されています。

PTFEとその他スーパーエンプラとの違い

PTFEはスーパーエンプラの中でも、特に耐熱性・非粘着性・耐薬品性において優れています。

PTFE's position in the hierarchy of resins, based on heat resistance and material properties

たとえば、連続使用温度が260℃に達するPTFEは、PPSやPEEKなど、他のスーパーエンプラでは対応できない過酷な温度環境で使用可能です。また、その滑らかな分子表面による非粘着性は、食品加工やフライパンのコーティングに最適です。

さらに、PTFEはほとんどの化学薬品に耐性を持ち、極めて過酷な化学環境でも性能を維持します。一方で、PEEKは機械的強度が高いものの、耐薬品性には限界があり、PPSはコストパフォーマンスで優れる反面、PTFEほどの非粘着性を持っていません。これにより、PTFEは特定の用途や環境において、他のスーパーエンプラを凌駕する選択肢となっています

PTFEのメリット・デメリット

PTFEは、耐熱性や耐薬品性をはじめとする多くのメリットを持つ一方で、使用時に留意すべきデメリットも存在します。この章では、PTFEの特徴における長所と短所について具体的に解説します。

Advantages and Disadvantages of PTFE

PTFEのメリット

PTFEには、以下のような長所が挙げられます。

  • 260℃まで使用可能な高い耐熱性
  • ほとんどの薬品に対して安定した耐薬品性
  • 物質が付着しにくい非粘着性
  • 滑りが良い低摩擦特性
  • 広範囲の周波数で安定した電気絶縁性
  • 長期間の紫外線や環境劣化に強い耐候性
  • ほぼ不燃性であり、安全性が高い難燃性
  • 撥水・撥油に最適な表面特性

まず、PTFEの耐熱性は非常に優れており、260℃という高温下でも安定した性能を発揮します。この特性は、製造現場の高温環境や調理器具のコーティング材として重宝されています。また、ほとんどの酸やアルカリに侵されない耐薬品性を持ち、化学薬品を扱う製造現場において欠かせない素材です。

さらに、PTFEは非粘着性も有しており、物質が表面に付着しにくいため、フライパンや食品加工設備で広く利用されています。同様に、極めて低い摩擦係数を持つため、潤滑剤なしでも滑りが良く、製造機械の回転部品などで高い効率を発揮します

電気絶縁性の高さもPTFEの特徴のひとつであり、広い周波数や温度領域で安定しているため、電子機器の絶縁材料として使用されます。この他にも、紫外線や環境劣化に対する耐候性が高く、屋外での長期使用にも適しています。また、難燃性や低吸水性により、安全性や耐久性を求められる用途でも優れた性能を示します。

PTFEのデメリット

PTFEには、以下のような短所が挙げられます。

  • 温度変化による寸法変化(線膨張が大きい)が起きる
  • 内部残存応力による変形(加工後の変形)が生じやすい
  • 外部応力による変形(高荷重時のクリープ)が起きる
  • 静電気を帯びやすく、適切な対策が必要

まず、PTFEは温度変化による線膨張が大きい点がデメリットです。たとえば、常温で寸法通りの部品が高温環境下で膨張し、仕様が合わなくなる場合があります。具体的には、25℃でΦ30 × 1,000(mm)の丸棒は、100℃の環境下で約1,010(mm)に膨張し、0℃では約995(mm)に収縮します。特に、23℃にはガラス転移点(Tg)があり、この領域をまたぐと寸法変化が大きくなります。これを防ぐためには、製品を使用する環境に合わせた設計や試験が必要です。

また、PTFEの成形時に内部に残る応力(材料内部に残っているストレス)が、後の加工や使用時に変形の原因となることがあります。あらかじめアニール処理を行うことで、この問題を軽減できますが、加工コストが増加する可能性もあります

さらに、外部からの高荷重により、時間とともに変形するクリープ現象が発生します。PTFEは樹脂の中では弾力性と柔軟性が高いため、使用時に著しい荷重がかかると、時間とともに変形が進みます。クリープを抑えるためには、充填材を加えたPTFE素材を使用したり、シール材であれば厚くするなどの工夫が求められます

最後に、PTFEは静電気を帯びやすい性質を持つため、燃料や可燃性物質の近くで使用する際には注意が必要です。静電気抑制剤を混合することでこの問題を改善できますが、設計段階での考慮が不可欠です。

出典:バルカー技術誌 No.47 SUMMER 2024

PTFEの成形方法

PTFEの成形方法はその特性に基づき、特殊な技術が必要です。特に、PTFEは融点以上でも溶解しない性質を持つため、通常の樹脂加工法である押出成形や射出成形が使用できません。そのため、形状や用途に応じた独自の加工法が用いられています。この章では、代表的な成形方法と具体例を解説します。

圧縮成形

圧縮成形は、PTFEを成形する際に広く採用される基本的な方法です。この方法では、モールディングパウダーを金型に充填し、常温で圧縮して成形体を作成します。その後、成形体を焼成炉で加熱し、粉末を融着させます。

この方法は棒材や管材、板材など切削用の素材を製造する際に最適です。化学プラントで使用されるPTFEライニング管やシート、各種の工業用シール材が圧縮成形で製造されています。

ラム押出成形

ラム押出成形は、長尺のロッドやパイプを連続成形する際に用いられる手法です。金型と加熱ヒーターを組み合わせ、油圧シリンダーで押し込みながらPTFEを融着させて成形します。

この方法は、防食パイプや耐薬品性の高い配管材料の製造に適しています。耐薬品性が求められる工業用配管や長尺の絶縁チューブがラム押出成形で作られています。

切削加工

PTFEの柔軟性と弾力性を活かした加工法として、切削加工が挙げられます。この方法では、成形された素材を機械で削り出し、特定の形状に加工します。

摩擦抵抗が小さいPTFEの特性により、加工は比較的容易であり、精密な部品の製造が可能です。医療分野で使用されるカテーテル部品や自動車産業向けのシール材は、切削加工で製造されています。

特殊加工(フィルム・シートなど)

フィルムやシート形状に加工する場合、成形素材をかつら剥きの要領で切削する方法が一般的です。さらに薄いフィルムが必要な場合には、加熱ロールを用いて延伸加工を施します。

一方で、チューブやテープシールといった特定の形状を製造する際には、ファインパウダーが利用されます。ファインパウダーの粒子はスポンジ状の多孔質構造を持ち、潰れやすく、せん断力を加えることで簡単に繊維化し変形しやすい性質があります。この特性を活かすために、押出助剤を添加して押出用の成形体を作成します。この成形体を押出成形により加工することで、チューブやテープシールといった形状を効率的に製造できます。

また、ディスパージョン液はPTFE含浸ガラスクロスを製造する際に広く使用されています。ディスパージョン液にガラスクロスを含浸させ、乾燥焼成を繰り返すことで、耐薬品性や耐熱性に優れた厚みのあるコーティング材を作成することが可能です。食品加工のベルトコーティングや、半導体製造装置で使用されるPTFE含浸ガラスクロスがこの方法で作られます。

PTFEを取り扱う上での注意点

PTFEは多くの優れた特性を持つ一方で、その性質から取り扱うにあたって注意が必要な点もあります。代表的な注意事項について解説するので、選定時の参考にしてください。

線膨張が大きい

PTFEは温度変化による寸法変化(線膨張)が大きいという特徴を持っています。この性質により、加工や使用時には温度の影響を考慮する必要があります。PTFEは金属に比べて大幅な寸法変化を示し、温度が高くなるほど膨張し、低くなるほど収縮します。そのため、特に高い寸法精度が求められる場合には慎重な対応が必要です。

たとえば、PTFE製の部品が高温の環境で膨張すると、設計寸法が変化し、密閉性や部品同士の接続性に影響を与えることがあります。そのため、加工の際には荒加工後に熱処理を施して内部応力を解放する手順が推奨されます。これにより、線膨張の影響を最小限に抑えることが可能です。

高温下でのガス発生に注意

PTFEは耐熱性に優れていますが、350℃以上の高温環境では分解が進み、有害なガスを発生することがあります。この分解ガスにはフッ素系化合物が含まれており、それを吸入すると「ポリマーヒューム熱」と呼ばれるインフルエンザに似た症状を引き起こすことがあります。症状は軽度で後遺症が残ることは少ないものの、健康リスクを避けるための予防が重要です。

350℃を超える環境で使用する際には、適切な換気設備を設置するか、密閉された環境での使用を避けるといった対策が求められます。また、加熱作業を伴う工程では、防毒マスクや作業エリアのガス検知器を利用することが推奨されます。

静電気による火災リスクへの注意

PTFEは静電気を帯びやすい性質があり、使用環境によっては注意が必要です。特に、可燃性物質の近くでの取り扱いには十分な配慮が求められます。PTFEは電気を通しにくいため、使用中に静電気が蓄積しやすくなります。この静電気が原因でスパークが発生すると、火災や爆発のリスクが高まる可能性があります。

たとえば、燃料タンクのライニングや化学プラントでの使用では、静電気の蓄積を防ぐために導電性を持つカーボンを添加したPTFEが使用されることがあります。また、静電気を放電するための接地装置を設置することで、安全性を向上させることが可能です。

長時間の荷重による形状変化への対策

PTFEは荷重が長時間加わると、徐々に形状が変化する「クリープ変形」を引き起こすことがあります。この特性により、設計や運用において工夫が必要です。PTFEは弾力性と柔軟性に優れていますが、これにより長時間の荷重に耐えると形状が歪む傾向があります。特に、高温環境下ではクリープの速度がさらに速まります。

たとえば、シール材やガスケットとして使用される場合、クリープ変形により密閉性が低下するリスクがあります。これを防ぐためには、充填材を混ぜたPTFEを使用するか、設計段階で厚みを増やして変形量を抑える工夫が求められます

PTFEの主な用途と産業での活用例

PTFEはその優れた特性を活かして、産業から日常生活まで幅広く活用されています。この章では、主な用途を分野ごとに整理し、それぞれの具体例について詳しく解説します。

半導体産業

半導体産業では、PTFEは次のような用途に利用されています。

  • 薬液タンクや配管の内張り
  • ポンプやバルブ部品の保護
  • 強酸や強アルカリを扱う工程の耐薬品素材

半導体製造の工程では、ウエハー上に微細な回路を形成するために、強酸や強アルカリといった薬液が使用されます。この工程では、薬液が接触するタンクや配管、ポンプ、バルブの内側に高い耐薬品性を持つPTFEが使用されることで、不純物の混入を防ぎ、安定した製造環境を確保しています。PTFEはこうした用途を通じて、半導体製造の高い品質基準を支える重要な材料です。

電子機器産業

電子機器産業では、PTFEは以下の用途で活用されています。

  • 電線被覆やケーブルの絶縁
  • 電子部品の保護材

電子機器の製造現場では、PTFEの高い電気絶縁性が求められます。広い温度や周波数範囲で安定した誘電正接を発揮するため、電線の被覆材料や電子部品の絶縁材として使用されています。さらに、過酷な環境下でも性能を維持できる特性から、高信頼性が必要な航空宇宙分野でも採用されています。これにより、PTFEは電気的安定性を要するすべての分野で欠かせない素材となっています。

医療産業

医療産業では、PTFEは以下の用途が挙げられます。

  • 人工血管やカテーテル材料
  • 生体適合性を求められる機器の部品

PTFEは人体に対して反応性が極めて低いため、医療分野での利用価値が高い素材です。特に、カテーテルや人工血管など、体内に使用される医療機器の材料として広く採用されています。また、薬品耐性や非粘着性といった特性が求められる医療現場においても、PTFEはその機能性と安全性の高さが評価されています。

自動車産業

自動車産業では、PTFEは次の用途で活用されています。

  • ガスケット、シール、ホースの素材
  • エンジンや排気系部品の耐久性向上

PTFEは、耐久性や耐熱性、安全性が求められる自動車部品にも幅広く採用されています。エンジン周辺の高温環境にさらされる部品や、摩耗が発生しやすいガスケットやシール材などで高性能を発揮しています。また、新エネルギー車の開発に伴い、高電圧部品の絶縁材料としても注目されており、次世代の自動車製造においても重要な役割を果たしています。

その他生活環境を支える役割

産業用途にとどまらず、次のような生活環境の分野でもPTFEは活躍しています。

  • テント膜や建材
  • 衣料品
  • グリーンハウス

東京ドームのような大型テント膜では、耐候性が活かされ、長期間使用しても劣化しにくいという特徴が評価されています。また、住宅建材や衣料品では、防汚性や撥水性が役立ち、日常生活をより快適にするための素材として採用されています。さらに、グリーンハウスでは光透過性を活かしたフィルム素材として使用され、農業分野でもその特性が広く活用されています。

PTFE(バルフロン®)の種類および商品ラインナップ

PTFEには、用途や性能の要件に応じてさまざまなグレードや充てん材タイプが用意されています。また、バルカーではこれらの特性を活かした幅広い商品ラインナップを展開しており、多くの産業で活用されています。この章では、PTFEの主要なグレードと当社の提供するバルフロン®の商品ラインナップおよび制作事例についてご紹介します。

より詳細な商品ラインナップをご希望の方はバルカー製品情報をご確認ください。

PTFE(バルフロン®)の主要なグレードと特徴

PTFEはその優れた特性をさらに引き出すために、標準タイプから充填材を加えた特殊グレードまで、さまざまなタイプが展開されています。それぞれの特徴と用途について詳しく解説します。

標準および変性グレード

標準および変性グレードは、PTFE本来の特性を活かした汎用性の高いタイプです。耐熱性や耐薬品性、非粘着性のバランスに優れ、さまざまな用途で使用されています。

  • 特徴:優れた耐熱性(260℃までの連続使用温度)、高い耐薬品性、滑らかな非粘着表面
  • カラー:白色
  • 用途例:化学プラントのシール材、食品加工機器の部品、絶縁材料など

各種充てん材グレード

グラスファイバーやグラファイト、ブロンズ、カーボン、炭素繊維などの充てん材を配合したグレードは、特定の物性を強化しています。これにより、より過酷な環境での使用が可能となり、幅広い産業で活躍しています。

  • 特徴:耐摩耗性や機械的強度の向上、静電気の抑制
  • カラー:白色または充てん材の色に応じた色合い
  • 用途例:半導体製造装置の摺動部品、高負荷の機械部品、電気絶縁用部材など

当社ラインナップおよび制作事例の紹介

当社バルカーは1951年に、米国よりPTFE原料パウダーを10kg輸入。1952年にふっ素樹脂加工技術研究を終えて、PTFEを「バルフロン®」として製品化し、販売したことからはじまりました。

バルフロン®の豊富なラインナップを通じて、多様なニーズに対応する製品を提供しています。以下に代表的な製品群を紹介します。

  • バルフロン®シート
  • バルフロン®スリーブ
  • バルフロン®ロッド
  • バルフロン®切削テープ
  • バルフロン®両面処理テープ
  • バルフロン®片面処理テープ
  • バルフロン®粘着テープ
  • バルフロン®強化テープ
  • バルフロン®ガラスクロス
  • バルフロン®未焼成テープ
  • バルフロン®ベンダロンチューブ

バルカーのバルフロン®シリーズは、PTFEの特性を最大限に活かし、多様な産業や用途に対応する幅広い製品ラインナップを展開しています。標準グレードから充填材を加えた特殊グレードまで、用途に応じた最適な製品選びをサポートします。

高品質なバルフロン®製品は、バルカーの技術力とともに、産業界のさまざまなニーズに応え続けています。

PTFEの市場動向と最新トレンド

PTFEは、先端技術や社会的ニーズの変化に応じて、用途や市場が急速に広がりを見せています。この章では、PTFEにおける最新の市場動向や今後の展開について詳しく解説します。

半導体業界で拡大する需要

半導体製造におけるPTFEの需要は、今後も順調な拡大が見込まれています。特に、薬液管理や耐薬品性が求められる分野で、PTFEは欠かせない存在です。5G通信やAI(人工知能)、自動運転技術などの進展により、さらなる成長が予測されています。この分野では、高純度の薬液を取り扱うため、耐薬品性と非粘着性を兼ね備えたPTFEが必須材料となります

市場レポートによると、2024年には世界半導体売上高が前年比18.8%増の6298億ドル、2025年には13.8%増の7167億ドルに達する見込みです。これに伴い、半導体製造装置や薬液配管でのPTFE使用がさらに広がると考えられます。需要の拡大により、PTFEは半導体産業を支える重要な材料として、引き続き高い需要を誇るでしょう。

自動車分野での新たな役割

自動運転技術の進展により、自動車分野でのPTFEの活用が加速しています。特に、ミリ波レーダや高電圧系統での使用が注目されています。自動運転を支えるミリ波レーダは、電装ロスを極限まで抑える必要があります。そのため、絶縁性が高く、耐熱性に優れたPTFEが使用されることが一般的です

また、電気自動車(EV)では高電圧部品の絶縁材としての役割が期待されています。既存の先進運転支援システム(ADAS)や、アクティブクルーズコントロールに活用されているPTFEは、次世代自動運転車両での活躍がさらに拡大すると予測されます。今後、PTFEは自動車の進化に欠かせない素材として、モビリティの未来を支える存在です。

DXが変えるPTFE調達の未来

デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展により、PTFE製品の調達が効率化されています。従来の方法に比べて、スピーディで柔軟な調達が可能になりました。従来の調達プロセスでは、サプライヤーの選定、工場視察、サンプル作成、加工方法の相談など、多くの手間と時間が必要でした。しかし、DXの導入により、これらのプロセスがオンラインで完結できるようになりました

当社バルカーが展開するデジタル調達サービスQuick Value™では、図面をアップロードするだけで迅速な見積もりを取得でき、2時間以内のレスポンスを提供。これにより、設計から調達までの時間が大幅に短縮されます。DXの進展により、PTFE製品の調達プロセスに革命をもたらし、顧客にとって大きな価値を提供しています。

PTFEの調達ならQuick Value™

Quick Value™は当社バルカーが提供するPTFEやエンプラ製品の調達を効率化するデジタルサービスです。WEB上で簡単に見積り依頼から製品の発注まで完了することができ、短時間で高品質な調達を実現します。

図面をアップロードするだけで、原則2時間以内にお見積りをご提示します。また、バルフロン®をはじめとするPTFE製品の豊富なラインナップに対応しており、切削加工品や特殊加工品についても幅広いオプションを提供しています。

PTFEの切削加工品ならQuick Value™

Quick Value™では、切削加工や特殊形状加工のニーズが高いPTFE製品をスピーディーに提供可能です。加工先を探す手間を削減し、迅速な見積りと納期の確認をサポートします。設計者や調達担当者にとって、効率的で信頼できる調達ソリューションとして広く利用されています。

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バルカー編集部

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PTFE, エンジニアリングプラスチック, スーパーエンプラ, 樹脂, 高性能樹脂

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エンジニアリングプラスチック(エンプラ)とは?特性や種類・用途をわかりやすく解説

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プラスチックは一般的に割れやすく、高熱で変形する性質があります。しかし1930年代以降、これらの課題を克服した強度や耐熱性に優れた「エンジニアリングプラスチック(エンプラ)」が開発されました。

エンプラは金属やガラスの代替材料として、日用品から産業機械に至るまで幅広い分野で活躍しています。本記事では、エンプラの基本的な特性や種類、具体的な用途、調達時のポイントをバルカーの高機能樹脂担当スタッフがわかりやすく解説します。

エンジニアリングプラスチックの基本概要

エンプラは一般的なプラスチック(汎用樹脂)より高い強度や耐熱性を持つ高性能樹脂です。この章では、汎用樹脂との違いやエンプラの誕生背景、さらに進化したスーパーエンプラについて解説します。

Classification of Resins

汎用樹脂(プラスチック)との違い

私たちの日常生活で目にするプラスチック製品の多くは、PVC(ポリ塩化ビニル)やPE(ポリエチレン)、PC(ポリカーボネート)などの汎用樹脂で作られています。汎用樹脂は全合成樹脂の約70%を占め、耐熱温度は100℃未満であり、軽量で加工が容易なため主に日用品に利用されます。

その一方で、エンプラは耐熱温度が100℃以上あり、強度や耐摩耗性にも優れているため、自動車や機械部品といった産業用途に適しています。この特性の違いが、エンプラを「工業用高性能プラスチック」と位置づける理由です。

エンジニアリングプラスチックの定義と特徴

エンプラの特性を正しく理解するためには、プラスチック全般の分類や構造についての基礎知識が必要です。この章ではプラスチックの分類に基づき、エンプラが持つ特性や誕生の背景を順を追って解説します。

Type of resin

熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂

プラスチックは熱を加えた際の反応により「熱硬化性樹脂」と「熱可塑性樹脂」に大きく分類されます。

熱硬化性樹脂は熱を加えると硬化し、再加熱しても形状が変わらないプラスチックであり、電子基板や接着剤などに使用されます。一方で、熱可塑性樹脂は熱を加えると溶け、冷却すると固まる性質を持つプラスチックであり、再成形が可能なため、リサイクル性に優れています。前者はビスケット、後者はチョコレートに例えるとイメージしやすいでしょう。

エンプラは熱可塑性樹脂に該当し、成形加工の自由度や再利用の可能性がある点で高い価値を持っています。

結晶性樹脂と非晶性樹脂について

プラスチックは、炭素原子が鎖状に連なった「鎖状高分子」という化学構造を持っています。この構造により、分子鎖はある程度柔軟に動くことができますが、常温では分子同士が絡み合い、単独で動くことはほとんどありません。一方で、高温になると分子が活発に動き出し、分子間の規則性が失われるため、プラスチックは溶けてしまいます。

冷却時、分子鎖が規則的に並ぶと「結晶」が形成され、このような特性を持つプラスチックを「結晶性樹脂」と呼びます。一方で結晶を形成せず、分子が不規則に配置されるものは「非晶性樹脂」に分類されます。

  • 結晶性樹脂:分子間力が強く、耐摩耗性や機械的強度に優れていますが、透明性が低い
    • エンプラ:PA(ポリアミド) , POM(ポリアセタール) , PBT(ポリブチレンテレフタレート)
    • スーパーエンプラ:PPS(ポリフェニレンサルファイド) , フッ素樹脂(PTFE , PFA , FEP , E / TFE , PVDF等) , PEEK(ポリエーテルエーテルケトン) , LCP(液晶ポリマー)
  • 非晶性樹脂:透明性が高く、塗装や接着がしやすい性質を持ち、成型時の収縮も少ないため、精密な加工に適している
    • エンプラ:PC(ポリカーボネート) , mPPE(変性ポリフェニレンエーテル)
    • スーパーエンプラ:PSF(ポリサルホン) , PES(ポリエーテルサルホン) , PAR(ポリアリレート) , PAI(ポリアミドイミド) , PEI(ポリエーテルイミド)

このように、結晶性樹脂と非晶性樹脂は分子構造の違いによって異なる特性を持つため、エンプラでも用途に応じて使い分けられています。

エンジニアリングプラスチックが生まれた経緯と背景

エンプラの歴史は、1930年代に米国デュポン社が繊維素材としてPA(ポリアミド)の製造を開始したことから始まります。第二次世界大戦中、金属不足の解決策としてエンプラが開発され、戦後にはその利便性が一般産業にも広がりました。現在では、金属代替材料として多くの分野で欠かせない存在となっています。

汎用エンプラとスーパーエンプラの性能・用途の違い

エンプラはその誕生以来、金属代替材料としての需要が高まり続けています。特に耐熱性や難燃性へのさらなる要求を受けて、1947年には米国デュポン社がスーパーエンプラと呼ばれるPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)を開発・販売しました。

スーパーエンプラは高分子材料や補強繊維と複合化されたことで、従来のエンプラを超える性能を実現しています。特に150℃以上の高温環境での連続使用にも耐えるほか、卓越した強度や耐薬品性を備えています。このため、厳しい条件が求められる産業分野や特殊用途で広く採用されています。

エンジニアリングプラスチックの主な種類と特性

エンプラには多くの種類があります。ここでは特によく使われている代表的な種類を紹介します。

材質名 軽量性 吸水性 耐熱性 低温物性 強靭性 耐クリープ性 耐溶剤性 耐候性 難燃性 電気特性 耐摩擦・摩耗性 コスト 主な用途例
スーパーエンプラ PTFE ◎(~260°C) 化学プラントのガスケット・パッキン、高電圧ケーブル被覆材、軸受け
PBI ◎(~400°C) × 高温バルブシートやOリング、自動車エンジン部品、高温プラズマ環境で使用される絶縁材料
PEEK ◎(~343°C) × 航空宇宙部品(シール材、ベアリング)、医療機器(手術用器具)、半導体製造装置、自動車エンジン部品
PI ◎(~300°C) × 航空宇宙産業の断熱材、高温電子基板材料、半導体製造装置の絶縁部品
PPS ◎(~260°C) 自動車エンジン部品(燃料ポンプ)、半導体製造装置部品、化学プラントのバルブやポンプ部品
PFA ◎(~260°C) × 半導体製造プロセス用配管・バルブ、医療用カテーテルや人工血管、高温化学薬品搬送管
PCTFE ○(~150°C) × 航空宇宙産業の燃料システムシール材、半導体製造装置のインシュレータ、医薬品包装材
PEI ◎(~217°C) × 医療機器(滅菌トレイ)、航空宇宙機器(配線ハウジング)、電子機器基板、自動車ランプリフレクター
PSU ◎(~190°C) 医療用生体膜代替品(人工腎臓)、食品容器、自動車ランプハウジング、電子機器コネクタ
PVDF ○(~150°C) ケーブル被覆材、防水膜や外壁パネル、高温化学薬品配管、水処理フィルター
汎用エンプラ PA66 × ○(~150°C) 工業用ファスナー、配線コネクタ、自動車部品(ホース、ギア)、電気絶縁部品、繊維(衣料品やカーペット)
PC ○(~130°C) × 防弾ガラス、ヘルメットバイザー、自動車ヘッドライトカバー、電子機器ケース(スマートフォンやノートPC)、光学ディスク
MCナイロン × △(~120°C) × × 軸受け、歯車、ライナー、自動車部品(ホイールやシーブ)、工業用パイプ
POM △(~110°C) × × 歯車、ベアリング、スナップフィット部品、自動車部品(窓レギュレーター)、精密機械部品(時計ギア)
PA6 × △(~120°C) 歯車、ベアリング、ロープ、フィルム、食品包装材、自動車部品(エンジンカバー、燃料タンク)
UHMWPE △(~80°C) × スライダーやライナー、高耐久性ベルトコンベア、自動車燃料タンクライナー、防弾チョッキ
ABS △(~100°C) × 家電製品(テレビ筐体、冷蔵庫部品)、自動車内装部品、玩具(レゴブロック)、工業用カバー、パイプ継手

エンジニアリングプラスチックの主な用途

エンプラは、私たちの暮らしや社会のあらゆる場面で利用されています。以下に具体的な使用例を分野別に紹介します。

自動車産業におけるエンプラの用途

エンプラは自動車の多くの部品に欠かせない素材です。たとえば、レーダーのカバーなどの光学系部品には透明性と耐衝撃性に優れたPC(ポリカーボネート)、ワイパーなどの摺動部品には耐摩耗性が高いPOM(ポリアセタール)が使用されています。

さらにスイッチやコネクターなどの電装系部品には絶縁性が高いPET(ポリエチレンテレフタレート)、燃料系統には耐熱性と耐薬品性を兼ね備えたPPS(ポリフェニレンサルファイド)が採用されています。

航空機産業におけるエンプラの用途

航空機では、従来金属が使われていた部品にエンプラが活用されています。たとえば、内装パネルやボルトには軽量かつ高強度のPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)が使用されています。これにより、機体の軽量化が進み、燃費の向上に大きく貢献しています。

電子・電気機器分野におけるエンプラの用途

最近では、エンプラは電子機器や電気機器の精密部品にも幅広く使用されています。半導体の製造現場では、ウェハにパターン回路を形成する工程で薬液(強酸や強アルカリ)に触れる機会が多くあります。

この際、薬液に微量でも不純物が混入するとウェハ上の微細な回路パターン形成の障害となり、不良品が発生します。薬液の不純物混入を防ぐために、タンクや配管、バルブの内側に耐薬品性の高いPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)が内張りされています。

医療分野におけるエンプラの用途

医療分野でもエンプラは重要な役割を果たしています。たとえば、カテーテルやポンプなどのオートクレープ(高圧蒸気滅菌器)を通す器具には、耐熱性・耐薬品性に優れたPEI(ポリエーテルイミド)、人工関節には化学的に安定していて機械的に強靭なPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)が使用されています。

また哺乳瓶には、ガラスの代替として透明でありながら耐久性にも優れたPSU(ポリスルホン)が採用されています。

家電製品におけるエンプラの用途

家電分野でもエンプラの特性は重宝されています。電気系統のスイッチやコネクターには、ほぼ必ずエンプラが使用されており、耐熱性や電気特性に優れたSPS(シンジオタクチックポリスチレン)は電子レンジや炊飯器の重要な部品に用いられています。

食品関連・日用品分野におけるエンプラの用途

食品や日用品にも、エンプラの機能性が活かされています。割れにくく食器乾燥機の熱にも強い特性から、食器や調理器具の素材として使われています。

またPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)は、優れた耐熱性と非粘着性によって、炊飯器の内釜やフライパンのコーティングに用いられており、耐久性の高さとさまざまな食材や汚れの付きにくさを提供します。

工業分野におけるエンプラの用途

エンプラは工業用部品としても多くの用途に使われています。ギアやベアリング、ベルトコンベアなどの摺動部品には、別名ナイロンとも呼ばれる耐摩耗性に優れたPA(ポリアミド)が採用されています。

またベルトコンベアやシール材には、柔軟性と耐摩耗性を兼ね備えたPU(ポリウレタン)、耐薬品性と耐熱性が必要な化学プラント部品にはPSU(ポリスルフォン)が使用されています。それぞれの特性に応じた最適な用途によって、工業用部品の性能向上や機械の効率向上、長寿命化に寄与しています。

エンジニアリングプラスチックの加工方法

エンプラは、その優れた特性を生かすために多様な加工方法が用いられています。この章では、代表的な加工技術について解説します。

射出成形

インジェクション成形とも呼ばれる加工方法で、金型に溶かしたプラスチックを射出して冷却・固化させます。同じ形状の製品を大量に生産するのに適しており、自動車部品や電子機器の外装部品など幅広い製品で活用されています。

射出成形では、製品の形状や素材によってゲート設計や冷却速度の調整が重要であり、最終製品の品質に大きく影響します。

押出成形

押出成形は、ところてんのように、金型の押し出し口から溶かしたプラスチックを押し出して成形する方法です。断面形状が一定の製品を大量に作るのに適しています。

パイプやチューブ、フィルムの製造で広く用いられ、多層構造を持つ製品を製造することも可能です。押出速度や冷却のバランスが製品の精度を左右するため、細やかな調整が求められます。

切削加工

切削加工では、板材や棒材に圧縮成形した素材を機械で削り出し、目的の形状に仕上げます。射出成形では対応が難しい複雑な形状の部品や、少量生産の試作品に最適です。

近年では、コンピュータ数値制御技術を使用したCNC加工(Computer Numerical Control Machining)が主流となっており、複雑な三次元形状も効率的に高精度で加工できます。また、歪みやバリが出にくい点も大きな特徴です。

ブロー成形

ブロー成形は溶かしたプラスチックを型に入れ、空気を吹き込んで膨らませる加工方法です。中身が空洞の軽量製品に適しており、ペットボトルや化粧品の容器、燃料タンクなどの製造に活用されています。

真空成形

真空成形ではプレート状のプラスチック素材を加熱し、凹凸のある型に密着させて成形します。薄くて軽量な製品に適しており、卵のパックやバスタブ、家電製品の外装などが代表例です。

エンジニアリングプラスチックのメリット・デメリット

エンプラは金属や汎用プラスチックでは実現できなかった特性を備えており、多くのメリットを提供します。しかし、用途や環境によっては注意が必要なデメリットも存在します。この章では、エンプラの特性をメリットとデメリットに分けて解説します。

エンジニアリングプラスチックのメリット

エンプラの主なメリットを以下に挙げ、それぞれの特徴を詳しく説明します。

軽量で取り扱いやすい

エンプラは金属に比べて軽量で、同じ体積でも重量を大幅に削減できます。これにより、作業負担の軽減や輸送コストの削減が可能です。さらに自動車や航空機では、軽量化による燃費向上にも寄与します。

大量生産とコスト削減が可能

射出成形などの加工技術を用いることで、大量生産が容易になります。金属に比べて原材料費が安価であり、製造プロセスの効率化を実現できます。

種類が豊富で用途に応じた選択肢がある

耐熱性だけでなく耐薬品性や絶縁性など、エンプラは用途に応じた多様な特性を持つ材質があります。これにより産業機械や自動車、電子機器など、幅広い分野での利用が可能です。

摩擦を抑え、潤滑性に優れる

摩擦係数が極めて小さいため、潤滑油を使用しなくてもスムーズな回転運動・直線運動を実現します。また機械部品の摩耗を軽減し、長寿命化にも寄与します。

着色や透明な仕上がりが可能

エンプラは自由な着色が可能で、塗装が不要になる場合も多く、製造工程を短縮できます。また透明性を持つエンプラもあり、用途に応じたデザイン性を提供します。

複雑な形状や特殊な機能性を実現できる

金属では、複数の部品を繋げなければ複雑な形状を成形することは難しい一方で、エンプラであれば切削加工や射出成形を駆使することで、複雑な形状を一体成形で作ることが可能です。

また、グラスファイバーやカーボンを混ぜた充てん材入りであれば、強度や耐久性を向上させた高機能エンプラも製造できます。

エンジニアリングプラスチックのデメリット

一方で、エンプラにはいくつか課題も存在します。特定の用途では慎重な検討が必要です。

強度や耐熱性が金属に劣る

エンプラは金属の代替材料として優れていますが、強度や耐熱性、耐火性に関しては金属には及びません。高負荷や高温が予想される環境では、金属製品が適する場合があります。

燃焼時に有害物質が発生する場合がある

一部のエンプラは燃焼時に有害物質を発生させることがあります。環境や人体への影響に配慮した安全なエンプラの開発も進んでいますが、廃棄時には適切な処理が求められます。

高荷重による変形のリスクがある

エンプラは長期間の荷重や高負荷によって変形が生じる可能性があります。調達の前に、使用する環境や荷重条件を事前に考慮することが重要です。

紫外線や薬品による劣化のリスクがある

紫外線や油脂、水などにさらされることで劣化が進む場合があります。これにより寸法変化が生じる可能性があるため、定期的な保守や予防措置が必要です。

接着が難しい場合がある

一部のエンプラは接着性が低い特性を持っています。エンプラ同士、あるいは他の素材とは接着しにくいなどさまざまです。専用の接着剤の使用や切削加工による一体成形など、代替手段を検討する必要があります。

エンジニアリングプラスチック調達時の選定ポイント

エンプラを調達する際には、用途や条件に応じた適切な選定が必要です。以下のポイントを基準に判断することで、効率的で効果的な調達が可能になります。

部品や製品の要件を明確化する

エンプラには多種多様な種類があり、用途や環境に応じて最適な選択を行う必要があります。またエンプラの特性を理解し、不適切な使用を避けることが重要です。以下の要件を事前に整理することで、選定の精度が向上します。

  • 使用温度:耐熱性の適合を確認
  • 荷重:必要な機械的強度を満たすか検討
  • 部品に接触する流体:気体や液体、薬品による変形を考慮
  • 電気特性:絶縁性や導電性の有無を確認

これらの条件に合ったエンプラを選ぶことで、製品の性能を最大限に引き出せます。

コストと費用対効果を検討する

エンプラは汎用樹脂に比べて高価ですが、その性能は投資に見合う価値を提供します。ただし、サプライヤーごとに品質や価格が異なるため、計画的なコスト管理が重要です。

具体的には、以下の視点で検討してください。

  • 品質(Quality):安定した性能が得られるか
  • コスト(Cost):予算内で効率的に調達可能か
  • 納期(Delivery):供給がスムーズに行われるか
  • 安全性:燃焼時の有害物質や環境影響を配慮

QCDと安全性を総合的に評価し、調達が経済的かつ実用的であるかを確認することが重要です。

信頼できるサプライヤーを選ぶ

適切なサプライヤーの選定は調達の成功に直結します。品質保証が確立され、供給の安定が見込めるサプライヤーを選ぶことで、リスクを最小限に抑えることができます。

信頼性の高いサプライヤーを選定する際のポイントは以下の通りです。

  • 経験豊富で知見があるか
  • 使用環境や目的に応じた適切なアドバイスを提供できるか
  • 納期の管理やトラブル対応が迅速か

信頼できるパートナーを選ぶことで、調達業務がスムーズになり、製品品質も向上します。

エンジニアリングプラスチックの取り扱い上の注意点

エンプラは優れた特性を持つ一方で、使用環境や条件によってはトラブルが生じることがあります。以下に、加工・保管・使用時に実際に報告された事例とその原因について説明します。

これらは非常に稀なケースですが、事前に理解しておくことで対策が可能です。使用環境を正確に把握し、適切なエンプラの選定や保管・管理を徹底することが重要です。製品設計や製造段階で事前にリスクを洗い出し、必要に応じて専門家のアドバイスを受けるとより安心です。

高湿環境による寸法変化

高湿な環境に長期間さらされると、エンプラが吸湿し、寸法が変化する場合があります。特にポリアミド系樹脂(ナイロン)は吸水性が高いため、設置場所の湿度管理が重要です。

高温環境による線膨張

高温条件での使用時に線膨張が発生し、部品同士のクリアランスが変化することがあります。耐熱性を持つエンプラを選定し、適切な設計を行う必要があります。

薄肉部品での反り発生

薄いエンプラを使用した際に、成形や使用環境の影響で反りが生じる場合があります。材料の選択や成形プロセスの最適化が対策として有効です。

紫外線による劣化

紫外線に長期間さらされると、エンプラが劣化し、表面が欠けたりひび割れが生じることがあります。屋外での使用には、UVカット加工を施したエンプラを選ぶのが推奨されます。

薬品接触による劣化

耐薬品性のないエンプラを薬液にさらすと、化学的な反応で劣化が進む場合があります。薬品と接触する部品には、耐薬品性を備えたエンプラを選定することが重要です。

荷重による変形(クリープ現象)

長期間荷重がかかると、エンプラが徐々に変形する「クリープ現象」が発生します。設計段階で荷重分散を考慮するか、高強度のエンプラを選ぶことでリスクを低減できます。

静電気による火花発生と引火

エンプラは静電気を帯びやすく、火花が散ることで引火事故の原因となる場合があります。特に燃料が近い環境では、帯電防止対策を講じることが必須です。

エンジニアリングプラスチックの最新動向と市場展望

エンプラは産業用途を中心に世界中で需要が拡大しています。この章では、エンプラ市場の成長予測や新たな技術開発、環境への配慮について解説します。

市場規模と成長予測

エンプラ市場は国内外での産業発展に伴い、今後も成長が見込まれています。特に自動車の軽量化や電装化、半導体製造の需要増加が市場を牽引しています。

富士経済の調査によると、エンプラとスーパーエンプラの世界市場は2027年に1,237万トンに達する見通しです。これは2021年と比較して15.7%の増加を示しており、エンプラが引き続き重要な役割を果たしていくことを裏付けています。

出典:富士経済グループ / プレスリリース第22117号

環境対応型エンプラの開発

従来のエンプラは主に石油資源を原料としていますが、環境負荷軽減の観点から、代替原料の使用が進んでいます。代表例として、バイオマス由来のエンプラが挙げられます。これにより、二酸化炭素排出量の削減や資源の循環利用が期待されています。

環境省は2019年に「プラスチック資源循環戦略」を策定し、プラスチック製品をバイオマスプラスチックへ置き換える取り組みを推進しています。目標として、2030年までに最大200万トンのバイオマスプラスチック導入を掲げています。

出典:環境省 / プラスチック資源循環戦略について

環境への配慮とリサイクル技術の進展

エンプラの需要が増える一方で、廃棄される量も増加しています。環境への配慮として、樹脂のリサイクルに対する考えも活発化しており、以下の3つの方法が広く活用されています。

マテリアルリサイクル

材料リサイクルとも呼ばれるリサイクル法で、エンプラを破砕・溶解し、同じ用途の原料として再利用する方法です。比較的単純なプロセスで実施でき、循環型社会の実現に貢献します。

ケミカルリサイクル

化学分解によってエンプラを原料の状態に戻し、新たな製品に再利用する方法です。この技術は特に、複雑な形状や混合素材を含む製品に有効です。

サーマルリサイクル

エンプラを燃料として焼却し、熱エネルギーや発電に利用する方法です。エンプラのリサイクルが難しい場合に適用され、エネルギー回収の手段として有効です。

出典:一般社団法人プラスチック循環利用協会 / マテリアルリサイクル

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編集者

バルカー編集部

カテゴリー

タグ

PTFE, エンジニアリングプラスチック, スーパーエンプラ, 樹脂, 高性能樹脂

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